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道筋が決まったら部下を信頼して任せ、そして最終的に失敗してしまったらその責任を取るのも、重要な自分の仕事だ」この言葉に代表される経営メンバーのスタンスというのは、中小企業やベンチャーであろうと、大企業であろうと、普遍である。 きちんとビジネスの道筋を決めたら、現場を担っているスタッフたちにみずからの意志を伝え、あとは現場に一定の裁量を与えて任せていくのである。
だから経営メンバーがいなくても、その意志を伝達されている現場スタッフがきちんと業務をこなしている限り、ビジネスに大きな変化はない。 だが長い時間軸で見れば、ビジネスは経営者や経営メンバー次第で、大きく変わっていく。
先ほどの上司の言葉の中にある、「事業の道筋」が変わってしまうからだ。 これは経営者や経営メンバーの意志が何らかの理由で変化することでも生じるし、あるいは買収などで経営陣の総入れ替えが行われることによっても生じる。
たとえば最近では、Rによるニッポン放送の買収(最終的にはフジテレビと和解することで、買収そのものは実現しなかったが)という大きな事件があった。 もしフジとの和解が成立せず、Rが買収を強行していたら、ニッポン放送の株主総会で現経営陣がすべて退陣し、代わりにRのH社長がニッポン放送の代表取締役に就任していた可能性もあった。
そうなっていたら、いただろうか。 社長が交代したからといって、すぐにラジオ放送のオペレーションが変化するわけではない。

株主総会の後も、ニッポン放送の日常業務はこれまでと同じように続いていくだろうし、「Tのってけラジオ」や「Tのラジオピパリ−唇一ズ」「オールナイトニッポン」といった人気番組も、そのまま続いていたはずだ。 またニッポン放送が開局から五十年かけて作り上げてきた企業風土も、そう急激には変化しなかったはずである。
だがH氏が社長に就任し、経営陣を一新していた場合、長期的に見ればニッポン放送の事業戦略は大きく変わっていくことになっただろう。 いまよりもインターネットとの連携を強力に推し進めることになっただろうし、Rのメディア戦略の尖兵としての役割を同社が担わされる可能性も高かったに違いない。
一般論として、そうした大きな舵取りが、目に見えるかたちで表に現れるようになるのは、たぶん二年後や三年後のことになるはずだ。 しかしいったん変化が始まると、その変化の度合いはとてつもなく大きい。
現場の社員の仕事も、従来とは大きく様変わりしていくことになる。 経営メンバーになれるビジネスマンはたくさんいる企業に勤めるビジネスマンたちを見ていると、経営メンバーになれる資質を持った人がたくさんいることに驚かされる。
これまで私は仕事柄、数多くのビジネスマンと会ってきたが、彼らの高い資質には本当に驚かされるばかりだ。 ただ会社の従業員であるビジネスマンに問題がひとつあるとすれば、彼らが営業や総務といったひとつの仕事を与えられ、五年、十年と同じ業務だけをやってきたということである。
転勤ももちろんあるけれども、基本的には業務の内容にはさほどの変化はない。 結果的に、その業務の中身しか知らない視野の狭い人材になってしまっているケ−スが圧倒的に多いのだ。
しかしそんなふうになってしまっている彼らも、もともとの素質はきわめて豊かである。 特に大企業の場合、素晴らしい素材を持った人が入社していることが多い。
学生時代には豊かな創造性を持ち、新しいものに挑戦する活力を持っていたのである。 だが会社に入り、社会人として同じ仕事を五年、十年と繰り返しているうちに、徐々に創造性も活力も失いがちになってしまったようなのである。
ひとつのものごとを作りあげようとか、リスクを背負って何かに挑戦しようということがやりづらくなってしまい、あるいはそのやり方を忘れてしまっている人が多いのである。 でも何度も言うが、それは、「忘れている」だけなのである。

何かのきっかけで経営メンバーになる機会を得ることができれば、活力は戻り、そしてもともと持っていた素質を開花できるようになる人は多い。 私は二OO一年に、大企業で新規事業を担当している人を百人ほど集め、ベンチャーの起業支援を行う会員制ウエブサイト「アントレ・インキュベータ1ズネット」を立ち上げた(現在は休止中)。
大企業で事業開発やマーケティングを担当している人を、ベンチャー経営者とマッチングさせ、ベンチャーのための営業代行・プレゼンテーション代行をサービスとして提供しようと考えたのである。 この事業をスタートさせた当時に調べてみたところ、ベンチャー経営者の悩みは、資金調達に次いで「販路開拓やマーケティング」「仕事の獲得や提携交渉などのノウハウ、それに伴う人材不足」が課題となっていることが、アンケート調査などでわかったのである(「ベンチャー企業の実態に関する調査研究報告書」二000年二月東京商工会議所調べ)。
この調査結果からは、私がこの本で再三述べてきているように、「売り方開発」「商品開発」「組織運営」といった問題の解決が、経営メンバーの役割として求められていることがよくわかった。 このアンケート結果に基づいて、そうした経営メンバー的な仕事をこなせる大企業の人材と、ベンチャー経営者を「お見合い」させることで、ベンチャーにさまざまなノウハウを移転させることができるのではないかと考えたのだ。
このウエブ上のサロンに集まってもらった大企業のビジネスマンたちは、平均年齢三十代で、会社の中で新規事業を始めたばかり、だったり、あるいは将来的には自分でベンチャー企業を起こそうと考えている人が多かった。 そして彼らと実際に面会してみると、すばらしく発想が豊かで、戦略性もある人材が実にたくさんそろっていたのである。
それはこのサロンのもう一方の軸だった、ベンチャー経営者と比べてみても卓越していた。 はっきり言ってしまえば、起業したばかりのベンチャー経営者たちよりも、大企業のビジネスマンの方が視界も広く、戦略性も豊かで、そして実務経験も持っていたのである。
私は彼らの才能にほれぼれしながら、当時集まってくれたベンチャー経営者の方たちにはまことに申し訳ないが、「この人たちがベンチャーをやった方が、よっぽど会社はうまくいくのに」などと思ったりしたものだった。 その中にはたとえば、鉄道会社の中で新規事業を起こしている人もいた。

目を付け、商品価値がないと考えられていたこうした土地をうまく活用できないかと考えた。 計画を練りあげ、その一環としてベンチャー経営者にカフェなどの先端的な飲食店の展開を提案し、そしてさまざまなノウハウを与えてうまく事業を軌道に乗せてしまったのだ。
このビジネスはその後も成功し、現在では十数店舗を展開している。 このビジネスを成功させた原動力は、どちらかといえばベンチャー経営者の側ではなく、それをサポートした鉄道会社のビジネスマンに負うところが大きかった。
経営者はもともとは大手流通企業で飲食業などの事業を担当していた人で、たいへんな才能の持ち主ではあったものの、しかし事業の青写真を描くのはいまひとつ上手ではなかったのである。